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名古屋高等裁判所 昭和40年(ネ)275号 判決

控訴人(原告)

渡部重男

外四名

代理人

永井正恒

被控訴人(被告)

伊藤藤一

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、名古屋簡易裁判所が同庁昭和三七年(ヘ)第一一一号公示催告申立事件について昭和三八年八月一五日云渡した原判決添付目録記載の株券に対する除権判決を取消す、被控訴人のなした右公示催告の申立を却下する。(または本件を原審に差戻す)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

控訴代理人は、請求原因として、

(一)  被控訴人は、昭和三七年一二月三日、名古屋簡易裁判所に対し、原判決添付目録記載の株券について公示催告の申立をなし、その結果、権利の届出がなかつたとして、昭和三八年八月一五日右株券につき除権判決の言渡を受けたが、控訴人らは、同年九月六日初めて、右事実を知つた。

(二)  そして、被控訴人が右公示催告申立の理由として述べたところによれば、被控訴人は前記株券のうち、同人名義の株券は同人が株主で所持人であり、その余の株券は、原判決添付目録記載の各名義人から白地裏書によりこれを譲り受けて所持人となつたものであるが、同人はこれらの株券を梅村英助に対して入質し、同人に交付してあつたところ、同人がこれを紛失したので、公示催告の申立をするというのであつた。

(三)  しかしながら右公示催告の申立はつぎのとおり不適法であつて却下せらるべきものである。すなわち、

(1)  被控訴人は、記名株券の所持人ではなく、質権設定者であつたことが、その主張自体から明白である。そして質権設定者は公示催告申立権を有しないから、被控訴人のなした公示催告の申立は、申立権を有しない者の申立に係る不適法なものであるから却下せらるべきである。

(2)  仮りに被控訴人が本件株券の質権設定者であつたとしても、梅村は右株券を紛失したものではない。詳述すると、被控訴人と梅村との間においては、昭和三五年三月九日名古屋簡易裁判所において同庁昭和三四年(ノ)第二〇八号民事一般調停事件の調停が成立し、梅村はカスミタクシー株式会社の連帯保証人であつた被控訴人から、被担保債権金六、五〇〇万円の質物として本件株券の交付を受けていたが、被控訴人が右債務を弁済しなかつたため、調停条項に従い、本件公示催告申立以前において質権を実行し本件株券を処分し、かくて控訴人らは本件株券を取得した上、名義の書換をなし、これを所有するものである。そして、被控訴人が株券紛失の疏明として提出した「株券引渡仮処分決定の執行不能調書」に記載せられているとおり、これによつて疏明せられることは、(イ)梅村が本件株券を所持していないと陳述した事実と(ロ)梅村方の応接間に在つた金庫内には株券が存在していなかつたという事実だけであつて、これによつて株券が紛失した事実までも疏明せられるものではない。それ故に本件公示催告手続は、株券の紛失の疏明がないのに手続を進めた違法があるから、これに基いてなされた除権判決は違法であつて、取消を免れない。

と述べ、立証≪省略≫

被控訴人は、請求原因に対する答弁として、

控訴人ら主張の(一)および(二)の事実中、控訴人らが昭和三八年九月六日初めて本件除権判決の言渡があつたことを知つたという点を否認する外、すべてこれを認める、同(三)の主張は否認する。

と述べ、≪省略≫

理由

控訴人らの主張の根拠は、畢竟民事訴訟法第七七四条第二項第一号により、本件除権判決は、「法律ニ於テ公示催告手続ヲ許ス場合ニ非サルトキ」に該当するのに、これに違背した不適法なものであるという点に在るものと思料せられる。

ところで

(一) 控訴人ら所論のように記名ないし白地裏書ある株券の質権設定者たる株主が公示催告の申立権を有しないか否かについては解釈上争の存するところであるが、当裁判所は、むしろかかる株券の株主たる質権設定者は民事訴訟法第七七八条第二項の「証書に因り権利を主張し得べき者」として公示催告の申立権を有するものと解する見解に左祖する。けだしまず質権設定者たる株主は質権者がその株券を所持していたならば、なおその権利を行使することができたはずの者であることはいうまでもないし、また除権判決の効果の点から考えても除権判決をうけた者は株券の再交付をもとめうるのであるから、自己名義の株券の交付をもとめうる質権設定者たる株主は右の公示催告の申立権者と解すべきだからである。控訴人らの主張はすでにその前提を欠き採用できない。

(二)  民事訴訟法第七七四条第二項第一号の定めは、現にとられた公示催告手続について抽象的一般的にこれを認める法律上の根拠を全然欠く場合を意味するのであつて、いやしくも抽象的一般的に公示催告手続を許す旨の規定がある限り、具体的個別的の公示催告手続内でなされた事実認定が不当である場合の如きは、これに包含せられないものと解すべきである。本件において控訴人らの主張するところは、被控訴人が除権判決の申立をした当時、本件株券の所持人ではなく、梅村が右株券を紛失したものでもなく、かつ、控訴人らが本件除権判決申立当時においては現にこれを占有中であつたというに過ぎないのであるから、法律上右株券については一般的に除権判決をなすことを得ないというものではない。結局控訴人らの右主張は、具体的な公示催告手続内でなされた事実認定が不当であつたというに止まり、適法な除権判決取消の理由とはならない。

以上のような次第であるから、控訴人らの主張するところによつては、本件除権判決が民事訴訟法第七七四条第二項第一号に違背してなされたものであるということはできない。(昭和二八年(オ)第三八号、昭和三二年二月二二日最高裁判所第二小法廷判決参照)

よつて、その余の点を判断するまでもなく、控訴人らの請求は失当であつて、これと同趣旨に出た原判決は結局において相当であるからこれを維持し、本件各控訴を棄却し、控訴費用につき、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条に従い主文のとおり判決する。(成田薫 神谷敏夫 辻下文雄)

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